同じ職場で働く人が仕事の覚えがあまり良くなく、何をするにも時間がかかったり臨機応変な対応ができなかったりするけれど、何が原因かわからずどうすればよいか困っている人はいませんか?
この記事ではそんな人に知ってほしい、境界知能について詳しく解説します。
境界知能とは?
知的障がいは次の表で示すIQ区分により診断されます。
項目 | IQ区分 |
---|---|
健常 | IQ85以上 |
協会知能 | IQ70~84 |
軽度知的障がい | IQ50~69 |
中度知的障がい | IQ35~49 |
重度知的障がい | IQ20~34 |
最重度知的障がい | IQ20未満 |
境界知能とは健常者と軽度知的障がいのボーダーラインにあたるIQ区分で70~84の人たちのことを指し、知的障がいとは診断されませんが、統計学上は人口の約14%、1700万人が当てはまるとされているのです。
参考:NHK「なぜ何もかもうまくいかない?わたしは『境界知能』でした」
境界知能が注目された背景
境界知能という言葉が注目されたのは、2020年にベストセラーとなった児童精神科医宮口幸治さんの著書である「ケーキの切れない少年たち」の発売からでしょう。
宮口さんは医療少年院で多くの非行少年たちと出会う中で、計算ができない、漢字が読めない、計画が立てられない、見通しを持てない、反省や葛藤が持てないといった子供たちの存在に気づきます。
彼らには次のような特徴がありました。
項目 | 概要 |
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認知機能が弱い |
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感情統制が弱い |
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融通が効かない |
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自己評価が不適切 |
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対人スキルが乏しい |
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身体的な不器用さがある |
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境界知能を持つ人が全てこの特徴を持ち、非行をするわけではありませんが、学校や社会生活の中で大きな生きづらさを抱えていることは間違いないと言えます。
参考:新潮社「ケーキの切れない非行少年たち」
境界知能の大人の特徴と抱えている困りごと
境界知能の大人の特徴と、それにより抱えている困りごととはどのようなものなのでしょうか。
まず境界知能の大人には、次のような特徴があることが多いでしょう。
- 予想外のことに対処する力が弱いため、その場に応じた臨機応変な行動や振る舞いができない
- 見る力、聞く力が弱いため物事を理解するのに時間がかかる
- 想像する力が弱く集団の中で空気を読んだ発言をしたり、話した相手の気持ちを察したりすることが難しいので、悪気なく相手の気分を害する発言をしてしまう
- 想像する力が弱いため話の裏の意味を読む、冗談を理解するといったことが難しい
- 比喩や例え話を話した相手の意図通りに受け取るのが難しい
- 自分が必要な時しかコミュニケーションを取ろうとしないため、集団の中で浮いてしまう
これらの特徴から、境界知能の大人は次のような困りごとを抱えやすくなります。
- 知的障がい者ではないため、障害者総合支援法に基づいた支援を受けられない
- 仕事を繰り返し解雇されてしまい就職や転職がしにくい
- 対人関係のトラブルを起こしやすいため、人間関係の維持が困難で孤立してしまう
- 知的障がい者ではないため、自分の抱えているハンディキャップについて周囲からの理解やサポートが得にくい
社会生活においては「健常者」として位置づけられてしまうため、自己肯定感が下がり、生きづらさにもつながってしまうと言えるでしょう。
境界知能の子供の特徴と抱えている困りごと
境界知能の子供の特徴と、それにより抱えている困りごととはどのようなものなのでしょうか。
境界知能の子供は、次のような特徴を持つことが多いでしょう。
- 小学校低学年から勉強が理解できない
- 周囲の友達とのコミュニケーションや運動が苦手
- 集団でのルールや規則をなかなか守れない
- 登校を渋りがちになる
- 浅い考えで行動しているのが目立つ
- 不器用で作業ミスがある
これらの特徴から、境界知能の子供は次のような困りごとを抱えやすくなります。
- 知的障がい児ではないため、障害者総合支援法に基づいた支援を受けられない
- 学校の課題をうまくこなせず進路に影響を及ぼす
- 対人関係のトラブルを起こしやすいため人間関係の維持が困難で孤立してしまう
- 知的障がい児ではないため、自分の抱えているハンディキャップについて周囲からの理解やサポートが得にくい
親が受診させても知的障がい児ではないと診断されてしまうため、適切な教育やサポートが受けにくいと言えるでしょう。
境界知能の人にできる支援とは?
境界知能の人の特徴や抱えている困りごとを踏まえた上で、周囲の人はどのような支援を行うのが望ましいのでしょうか。
3つご紹介します。
- 努力しても物事をできないという体験を重ねてしまいがちになるので、自己肯定感を高めるためにも成功体験を積みやすい課題を選んでやってもらうようにする
- 専門家が困難だと客観的な評価をしたとしても、できないと周囲が決めつけず一度は物事にチャレンジしてもらうようにする
- 学習の土台となる認知機能を強化するためのトレーニングに取り組むよう促す
「ケーキの切れない少年たち」の著者である児童精神科医宮口幸治さんが代表理事を務める一般社団法人日本COG-TR学会では、認知機能強化トレーニングについての情報提供やサンプル配布などを行っているので、興味のある人は目を通してみましょう。
参考:一般社団法人日本COG-TR学会「認知機能強化トレーニング(COGET)」
まとめ
境界知能とは健常者と軽度知的障がいのボーダーラインにあたるIQ区分で70~84の人たちのことを指し、知的障がいとは診断されませんが、学校や社会生活に大きな困難や生きづらさを抱えがちになります。
この記事も参考にして、境界知能の人に対する支援を少しずつ進めていってください。